「空の海に 雲の波立ち 月の船 星の林を 漕ぎかくる見ゆ」
(万葉集 1068)
自作の歌
甘樫の
林を抜ける
月の船
旅の思い出: この歌にあったところを探そうと、甘樫の丘に登ってみました。
この時期に月が船のように見えるのは、明け方の東の空でした。
午前4時に起きて、月が出るのを待ちました。
三月初旬の山は深深と冷え込み、パレットの水がシャーベットのように固まっていました。
月は4時半頃に出て、歌の如く絵の如く素晴らしい情景が広がりました。
雲は東の山頂に懸かり波打っていました。月は糸のように細く、星は林のように広がって
月の行方をさえぎっていました。
朝6時、うっすらと空が明けてきて、すぐ近くで暁を告げる雉の声がしました。
さらに冷え込み、手袋をしている指先が凍て付くように痛く感じました。
東の空が徐々に明るくなって、錦糸のような月が遠く漕ぎ隠れるようにして薄れていきました。
そこで一首、
「甘樫の 林を抜ける 月の船 東の空に 漕ぎ行きて 暁告げる 雉の声する」
東の空に
漕ぎ行きて
暁告げる
雉の声する
和歌の意味: 天空が海のように思える。雲は波のように騒ぎ、月の形をした船が星の
林の中を漕ぎ隠れていくように見えてくる。