ここでは、「地獄の季節」を参考までに要約します。
「地獄の季節」の詩があまりにも長いため、全てを読む時間のない人のために、そのポイントだけを私なりに解釈して簡略化しました。
内容に疑問がある場合は、原文をご確認下さい。内容に関する一切の責任は取りませんのでご了承下さい。
さて、ランボーは、同書原文の年代記によれば、1854年10月20日にフランスのシャルルヴィルに生れました。幼年期は、母親の厳格
なしつけで、学校を秀才で通しました。彼の才能は驚くほど早熟で、既に16歳で「Les
Etrennes des orphelins(孤児の贈り物)」を当時の
La Revue pour tous誌に掲載しています。その後、各種の詩を発表しながら、19歳で、この「Une saison en enfer(地獄の季節)」を出版
しました。この詩作は、その後詩作した「Illuminations(イルミネーション)」とともに、文学への絶縁状となりました。
彼の文学との絶縁は徹底したもので、1873年、19歳の時に、ブリュッセルでヴェルレーヌに撃たれたピストル事件以来、1880年まで、
職を求めて各地を放浪し、その後約10年間アデンとハラルを根拠地として商業取引に明け暮れ、1891年に、骨肉腫にかかり、右足切断
の手術をうけましたが、同年11月に、37歳の若さで亡くなりました。
ランボーは、神童モーツアルトがそうであったように、彗星の如く現れ、とてつもない大きな才能を吐き捨てるようにして、去って行きま
した。彼が言う「千里眼(voyant)」を持ったがゆえに、その強力な透視力により、世の中の全てが見えてしまった苦しさを、そして新たに
見つけた「真実」を、反逆の詩作で、切々と歌い上げています。
それでは、充分時間を持てない人のために、「地獄の季節」を要約してみましょう。
前 文:
俺は、子供のころは、幸せ一杯で、わがままに過ごしていたものだ。
親愛なる悪魔様、どうか私の話を聞いてくれ。
悪の血:
俺にはゴール人という野蛮な血が流れている。そして、西洋人の血が。
西洋は、キリストを生み、多くの学問を生んだ。それらは全て民衆の幻想だ。
俺は、「真の魂」を求めている。西洋を去ろう。ご先祖様がいた世界へ戻るのだ。
いや、出発はとり止めだ。
物心がついた頃から持っている己の悪徳を背負って生きようか。
俺は、馬鹿者だ! 俺は生きた様子もなくさまよった。
俺は、生れたままの人間だ。嘘つきの黒ん坊がいる大陸を離れよう。急げ!
ところで、他の人生がこの世にあるのだろうか?
この世界を離れて、「崇高な愛」だけが、本当の知識の鍵を与えてくれるだろう。
俺は、全てを心得ている。神とのつながりを、どのようにして追いかたらよいのか?
安定した幸福なんてごめんだ。聖人、強者、隠者、芸術家のいかさま師が!
全ては道化に過ぎぬ。俺は進軍する。
だが、この臆病者は、今にもやられそうだ。フランス人の生活というものに!
地獄の夜
俺は、なみなみと注いだ毒盃を仰ぎ、今日の人間社会という地獄に居座った。
人間どもは、人間どもの掟によって、地獄の呪いを受けるのだ。
悪魔がいうには、俺は真実を捉え、正義を見ているのだそうだ。
俺は、己の愚かさを恐れるのだ。
俺は、全ての神秘を暴こう − 宗教と自然、死と出生、過去、創世、そして虚無を。
俺は、あらゆる能力を持っている! 要するに俺を信ずることだ!
心を癒すのは「信仰」だ。信頼さえあれば、幸せになれるであろう。
俺は、この世に未練などはない。俺の人生は、優しい愚行に過ぎなかった。
ああ!またもとの生活に戻るのか!俺はどうしようもない!
火はその呪いとともに燃え上がった。
錯乱T(狂気の処女、地獄の夫)
地獄の友の懺悔を聞こう。
「私は、何もかも穢れてしまった。許したまえ。私は、狂気の処女を痛めつけた地獄
の夫の奴隷です。
私は、あの人のところへ行くのです。そうしなければならないのです。
何はともあれ、あの人の思いやりは魅惑的です。私は、捕われの身です。
私は、あの人の理想がわからないのです。もし、あの人がもう少し野蛮でなかった
ならば、私たちは救われたでしょうに!私は、あの人の思いのままです。
ああ!私は馬鹿者です。」
変な夫婦もいたものだ!
錯乱U(言葉の錬金術、最も高い塔の歌、飢え)
俺は、久しい以前から全てを学んでいた。
俺は、詩的言語を発明したと思い込んでいた。
古びた詩作が、俺の言葉の錬金術の中で幅を利かせていた。
俺はついに、俺の精神の錯乱が、神聖なものであることに気付いたのだ。
俺は、物語の中にいて、人の世に別れを告げたのだ。
時よ来い、陶酔する時よ来い。
俺は、荒れ果てた場所を愛し、全てを破壊するのだ。
時よ来い、陶酔する時よ来い。
俺に食い気があるならば、土くれと石ころ以外に、何もない。
ああ、遂に本当の幸福がやってきた。
また見つかった! 何が? 永遠が。太陽に溶け合う海が。
俺の臨終の時は熟した。
俺は、旅をして、俺の脳髄に寄り集まった呪いを解いてしまわなければならなかった。
俺は、海の上で慰安の十字架が昇るのを見た。
不可能
俺は、逃亡するのだ! 俺は何もかも全てを知った。
俺達は、いつもお互いに認め合っては、憎みあっているのだ。
俺達には、慈愛というものがわからない。
だが、俺達には、教養というものがある。
俺達の世間のつながりは、いかにも都合よくできているのだ。
粗末な分別が、また戻ってきた。俺の数々の体調不良は、俺達が西洋にいるという
ことを早く悟らなかったことに起因することがわかった。
今ここで、東洋の終焉まで、人間の精神が辿ってきた残虐な発展を受け入れよう。
俺の心が望むところだ!
俺は、殉教者の勝利を、芸術の光を、発明者の傲慢を、そして略奪者の情熱を、悪
魔の許へ送り返した。
俺は、再び東洋へ、そして当初の永遠の叡智へ戻るのだ。
何もかもが、未開の国、東洋の慎み深い思想と、かなりかけ離れているのか?
何が現代だ、このような毒物ばかり発明しおって!
教会の人々よ、哲学者よ、あんた達は、西洋人種だよ。
もし、俺の魂が、この時点から常にはっきりと目覚めてくれるものならば、俺達はや
がて真理に行き着くであろう。
おお、純粋さよ! 純潔よ! 俺に純潔の夢を抱かせるのは、この目覚めの時なの
だ!
人は、魂によって、神に至るのだ!
閃 光
仕事だ! これが俺の深淵に時折、閃光を放つ爆発だ。
俺は、この世で何ができるのか? 科学はあまりにも歩みが遅すぎる。
俺は、そこに幼年時代の汚れた教育の姿を認めた。
俺も二十歳に近づくのだ。
いやだ、いやだ、永遠は、俺達には失われていないのだろうか。
朝
今日は、俺も地獄と手を切ったと信じている。いかにもそれは地獄であった。
人の子が、扉を開けた昔ながらのものだった。
盲信の終焉を唱えるために、俺達は出かけるのだ。
別 れ
もう秋だ! 俺達の小舟は、動かぬ霧の中に切り放たれて、悲惨の港を目指し、泥
と焔で汚れた空に覆われた巨大な町を目指して、舳先を向けるのだ。
そして、冬が安楽な季節ならば、俺は冬が怖いのだ!
俺は、あらゆる祭りを、勝利を、劇を創造した。
俺は、新しい花を、新しい星を、新しい肉を、そして新しい言葉を発明しようと試みた。
俺は、超自然的な能力を得たと信じた。
だが今は、俺の数々の想像と追憶を葬らなければならないのだ!
芸術家の、作家としての輝かしい栄光が消えるのだ!
最後に、虚偽を食い物にしていたことを侘びるとしよう。さて、出かけよう。
いかにも、新しい時というものは、何はともあれ厳しいものだ。
しかしながら、これは前夜だ。全てのたくましい生気と本物の優しさを受け入れよう。
そして、夜明けとともに、燃えるような忍耐の鎧を着て、光り輝く街々に入ろう。
そこでは、俺の魂と肉体の中に、真実を所有することが許されるであろう。
完