長崎西国スケッチ紀行中に私が創作した俳句を紹介します

 旅に病んで夢は枯野をかけめぐる思い、誠に無念極まりぬ芭蕉翁の思いを果たさんと、

神無月の初め、ひそかに芭蕉を背負いて膳所の義仲寺を出でたり。
 
 平成十八年十一月十一日(土)
朝十一時、芭蕉三百十三回忌「時雨会」にて供養せり。
        
      時雨会に 会えて芭蕉の 供養かな  

      果たさんと 芭蕉背負いて 旅しぐれ  
        
      芭蕉忌や 膳所のお人の 温かさ 

 翌朝、琵琶湖の畔にてスケッチ紀行出立にあたり、空定めなき景色にやや不安を覚えて

      琵琶の朝 弓月が雲に 隠れけり

      旅立つや 香取の海は 時雨けり

      朝時雨 思い出しけり 妻の顔


  
京都の落柿舎にて、寄寓にもお会いした友と一緒に三百年を超える柿の木を見て

      年を経て 風情たしなむ 柿の庵


      友と見る 柿の赤味や デリカテス

      柿の実や 趣きゆかし 萱の庵

      熟せりと 京の契りの 柿の渋

 十三日朝、二尊院前にて見上げる月に、犬の遠吠えを聞いて

      小倉山 犬の遠吠え 朝の月

 京北の栗尾峠にて有明の月を見る

      山柿たわわに残る月  

      山柿の たわわに残る 朝の月

 天橋立にて、秋風の吹く松林に時折激しく降る雨を眺めて

      いざなぎの 松に暮れけり 秋の雨

      橋立や 色定まらぬ 大時雨


  
鳥取砂丘にて、さびしき虫の音を聞いて

      虫の音や とぎれ厠の 壷の中

      虫の影 鳴き声無なし 厠かな

      キリギリス 霜夜の友は 唯一人

      キリギリス 声遠ざかる 夜寒かな

      白砂に 渡る秋風 根なし草 

 神の賑う出雲にて、そこに行き交う人々の姿を眺めて

      どことなく 賑う出雲 神無月

      凩や 大国主の 怒りかな

      七五三 子宝告げる 大太鼓

      千歳飴 親が子供の 後を追い


      しぐれ来て 湯は唐草に 模様立ち

      苔むす巌のさざれ石

 益田の中須海岸にて、入水した人麿の俤を偲びて

      人麿の 袖振る浪か 秋の風

      石蕗に 心をいやす 歌人かな


 津和野にて、行く秋の寂しさを感じて

      城跡に 告げる津和野の 秋さみし

 漸く壇ノ浦にたどり着きて、海峡を流れる潮の流れに、安徳天皇と平家一門の冥福
を祈りて


      旅時雨 たどりたどりて 壇ノ浦

      哀れやな 潮の流れに散るもみじ

      冬日和 哀れを誘う 潮の底

      水底の 冬の寒さを 知る時し


 平成十九年二月三日、月のさわやかな夜に旅立ちて

      立春の 月はさやかに 旅の空

      月青く 富士の高嶺に 雪明り
 


 大宰府の紅梅を見つつスケッチをして
           とう みかど
      梅の香や 遠の朝廷の かぐわしき
 


      若草や 礎石に浮かぶ 歌の影
 


 訪ね訪ねて旅千里、思いはせたる「飛梅」を見て


      旅千里 思い染め来ぬ 梅の花 


      飛梅や 京より便り 届きおり
 


 
英彦山神宮にて、春風にのって法螺の吹く音が聞こえてくるような思いがして

      修験者の 法螺吹く声か 春の風 

 英彦山温泉に漬かって

      旅早春 湯煙ぬける 流れ星         

 長崎の出島に来て
         オランダ
       
     つと
      阿蘭陀の 花を都の 土産にせん 

 唐人屋敷跡にて

      街はもう 春節祝う 賑やかさ

 雲仙温泉に鄙びた温泉館を見つけて

       春浅し 神に湯けむり 世捨人

 島原城の梅園にて

       梅白し 目白飛び来て 蜜を吸い

      梅の香や 蜜を楽しむ 小鳥かな

 不知火の海岸を眺め、夏の怪火を思いつつ

          
     かいか
    早春の 闇に怪火か 漁火か

 白壁蔵屋敷の町「松合」にて

    白壁に 春のうつろい 桐地蔵

 平成十九年三月十七日午後、山口県秋吉台地を通過して

      秋吉の 石の台地に 春降りた

 旧霧島神社で神の声を聞くような思いに駆られて

      霧島の 山にうぐいす 神の里

 霧島高千穂峰の頂上に立ちて

      高千穂は 春の降臨 神の山

 「みやまきりしま」の葉が冷たい春の風にじっと耐えている姿をみて

      芝草の みやまきりしま 春を待つ

 高千穂峰を下山する折、鹿児島湾を望みて

      高千穂や 薩摩の海の 春霞

 雨に打たれた桜島を見て

      健男の 雨に春泣く 桜島

 指宿温泉にて

      棕櫚の葉の パサリパサリと 春の雨

 池田湖に映る開門岳を見て

      薩摩富士 湖面を渡る 薄霞

 硫黄島の俊寛堂にて

      うぐいすや 籠り戸ゆかし 竹の奥

 春の夕暮れに島の孔雀が鳴くのを聞いて

      春の島 孔雀恋する 夕間暮れ

 島の朝、孔雀の鳴き声で目が覚めて

      島の朝 孔雀や春の 時の声

 日南の堀切峠で、芭蕉の林を見て

      日南の 芭蕉眼下に 春の海

 日向の青島神社にて、弁財天を拝みて

      青き海 天の恵みか 春景色

 一ツ葉稲荷神社にて、寿老人を拝みて

      願わくば 延命長寿 喜寿の春

 智浄寺にて、福禄寿を拝みて

      翁背に 満願成就 春の旅

 妙国寺にて、毘沙門天を拝みて

      春の夢 毘沙門天に 託しけり

 永願寺にて、布袋尊を拝みて

      花誘う 布袋の笑顔 身の宝

 本東寺にて、大黒天を拝みて

      大黒の 小槌に誓う わが春よ

 今山八幡宮にて、恵比須神を拝みて

      古き神 春の山辺で 鯛を釣り

 高千穂峡の谷底にて、うぐいすの鳴くのを聞いて

      谷深く うぐいすの声 天に聞く

 国見が丘で、雲海を見て

      春雨や 国見の山河 雲の海

 別府の鉄輪温泉で湯けむりをみて

      鉄輪の 湯けむりの先 春の月

 宇佐神宮のご神木を拝みて

      一位樫 楠の尊き 宇佐の春

 同じく宇佐神宮で、山桜が一本咲いているのを見て

      哀れやな 宇佐にて会えし 山桜


 平成十九年四月二十九日、蒲生を通過して

      八重桜 蒲生の若葉 恋めやも

 同じく、吹田にて

      渋滞の 道の葉陰に 藤の花

 同じく、西宮にて

      六甲の 青葉吹き出す 若葉かな

 安芸の宮島に渡りて

      宮島や 鯛に身をかれ 子安貝

 道後温泉の湯に浸かって

      五月雨や はれて湯上り 朝の風

      夏来る 湯流し響く 朝湯かな


 松山の三津浜港にて


      熟田津の 潮みつ浜に 春の風

 香川県三野津にて


      汐干潟 浜に佇む 鼠島

 弥谷(いやだに)寺にて


      挙菩薩の 微笑みうれし 遍路笠

 曼荼羅(まんだら)寺にて


      お遍路の 読経を聞きて 昼寝石

 善通寺にて


      門前の わらべ親しき 幟(のぼり)かな

      うどん喰う 讃岐や春の 善通寺

 沙弥(しゃみ)島にて


      春風に 身をまかせけり 帆掛舟

 崇徳天皇の白峰陵にて


      白峰の 御陵冷たき 春の雨

 屋島の北嶺にて


      のどかさや 目にしみわたる 瀬戸の海

 屋島の壇ノ浦にて


      源平の 世を知る屋島 目に若葉

 淡路島の室津にて


      西淡路 漁船のひびき 春うらら

 淡路島の松帆の浦にて


      ホーホケキョ 松帆の浦の 夕間暮

      夕影に うぐいす啼きて 手を止める


 絵島の浦にて


      待ちわびる 江島の浦の 初夏の月

      行く春や 丑三つ月夜 海人の船


 明石にて


      日は山に ゆったりゆれる 春の海

 布引の滝にて


      春惜しむ 六甲下る 古き滝

 箕面(みのう)滝にて


      箕面滝 谷間深く 藤の花

 大津に戻りて


      時雨旅 戻りて来れば 五月晴れ

 近江草津にて


      弓月見る びわ湖の朝や 麦の秋

 
平成十九年五月十二日(土)、朝十一時、義仲寺で営まれし「奉扇会(ほうせんえ)」にて

芭蕉を供養せり。ここで芭蕉をひそかに背から降ろして、別れけり。


      夏告げる 旅路の別れ 奉扇会





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