旅にして、そよと吹く風のこころ知らざれば、人の心を知るすべもなく、冴え渡る月のこころを留めねば、人の心を留めるすべもない。また、はらりと散る花にこころを打たざれば、人の心を打つすべもなし 

 隅田川の芭蕉庵跡で、芭蕉の船出を思い浮かべて

       「若葦の 川面分けたる 船出かな」         

     すさのう
 千住の素盞能神社にて、スケッチ紀行の安全を祈願して

       
「絵にたくす 若葉萌えたる 奥の道」       

 日光の山の端に出た月をのぞみて

       「めでたきは 日光照らす 春の月」         

 日光の露天風呂で朝湯につかっていると、どこからかしきりと鳥の子が鳴く声がして
                            こどり

       「朝風呂や 仕切の裏で 鳴く子鳥」
      きつつき

  雲巌寺にて啄木鳥の木を打つ音が森閑として響き渡るのを耳にして 

        「啄木鳥や 天までとどけ 槌の音」        
                たたず
 空気が止まって見える芦野の田に佇む遊行柳の傍らに立ちて

        「風もなく じっと佇む 柳かな」
       さばこ 

 朝6時、熱い鯖湖の湯につかって 

        「朝霞 鯖湖の熱い 湯のけむり」
         たけくま 

 歌枕として有名な武隈の松をのぞみて

       
「目に青葉 歌いつがるる 二木松」         

 松島の美しい松に囲まれた五大堂を見て

       「細やかな 松の青葉や 五大堂」

 平泉の高館から北上川に入る衣川を眺望し、古戦場で散った若武者の無惨な姿を
思い起こして

       「五月雨の 泪を誘う 衣川」            

 鬱そうとした中山峠を越える折に、蛇と毛虫を目の当たりにして

           へび けむし
    
  「蛇毛虫 踏み惑いてや 峠道」

 立石寺にて、団体の観光客が大声で騒ぐのを見て

       「静けさに 初夏の嵐か 人の声」         

 最上川の辺で車中泊し、月を一人で眺めた折り

       「月一人 風の香かおる 最上川」

 羽黒山の奥深く南谷で、風の音にじっと耳をかたむけて

            せいらん        

       「青嵐に 梢ざわめく 南谷」

        「清涼の 草木をわたる 風の音」

 かつて芭蕉が訪ねた折には海に浮かぶ島が、1804年の大地震で土地が隆起し、
丘となって水を張った水田に映し出されるのを見て
           きさかた

       「象潟や 春田に浮かぶ 島の影」

 佐渡をのぞみつつ、夏だというのに風強く海が荒れているのを見て 

                   あらそ

       「日暮れ時 荒磯の海や 佐渡の夏」

 源平の世に戦場だった草茂る倶利伽羅峠の林の間から遠く能登半島をのぞみて

       「草の息 峠で望む 能登の海」

 金澤に入り、最初に静かな川のせせらぎを聞いて

       「初夏の風 夕暮れせまる 浅野川」

 小松の建聖寺にて早朝、芭蕉の弟子が彫ったという木像を拝みて

       「芭蕉像 木彫りを拝む 夏の朝」

那谷寺の有名な白い奇岩が夕陽に照らされて、桃色に染まるのを見て

       「白山の 夏の夕暮れ 獅子の岩」

 芭蕉が「庭掃いて出ではや庭に散る柳」と読んだ柳を見て

                             ぜんしょうじ

       「青々と 柳ゆらめく 全昌寺」
  け ひ
 気比神宮の鳥居をくぐり、気が引き締まる思いがして

       「神宿る 気比神宮の 夏の月」

 江戸時代に舟が盛んに行き来した大垣の水門川の石畳を見て

       「暑き日の 足音響く 石畳」

奥の細道スケッチ紀行発句集

 奥の細道スケッチ紀行中に私が創作した俳句を紹介します

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